「戦略」という用語はさまざまな分野で用いられていますが、営業においても「営業戦略」という言葉が存在します。
営業は営業担当者と顧客の1対1のゲームではなく、競合他社や代替品などが存在する競争です。
そして競争である以上、ライバルに勝つことを意識しなければなりません。
本記事では営業戦略の概要について解説するとともに、具体的な営業戦略の立て方・フレームワークについてご紹介します。
営業戦略とは
営業戦略とは、売上向上やシェア拡大などの目的を達成するために計画を立てることを意味します。
売上を伸ばしたりシェアを広げたりするためには、市場における競争に勝たなければなりません。
「戦略」という言葉は本来、戦争・軍事の分野で用いられていきました。
営業は命のやり取りをする戦争とは異なりますが、「他者との競争に打ち勝つために思考を巡らす」という点では通じるものがあります。
したがって、元々は戦争・軍事において相手を倒すためのノウハウがビジネスの分野にも取り入れられたと言えます。
営業戦術との違い
「戦術」は「戦略」と混同されがちですが、両者は明確に区別される必要があります。
戦略は「目標達成のための総合的な計画」であり、戦術は「戦略を具体的に落とし込んだ作戦」です。
戦術は戦略を土台にしているため、たとえ戦術を完璧に練り上げたとしても、間違った戦略に根ざしていれば失敗に終わります。
例えば取引先との接待において、取引先を喜ばせるために評判の良い居酒屋を予約し、当日のトーク内容を完璧に準備したとしても、当日になって取引先が「酒をまったく飲めず、居酒屋よりも落ち着いた場所で話すことを好む人物」だと分かれば、計画や準備も無意味でしょう。
そもそも「相手は居酒屋を好む人物か」を情報収集したり、「接待よりもっと契約に役立つ手段はないか」を考えるという戦略的視点を持つことで、その後の戦術面での工夫につながります。
営業戦略の立て方
続いて、営業戦略の立て方を説明します。
営業戦略は以下のような流れで立てていきます。
- 市場をリサーチする
- 現状を分析する
- 課題を明らかにする
- 目標を決定する
- 計画に落とし込む
それぞれの手順について解説します。
1.市場をリサーチする
市場リサーチの目的は、市場規模や競争他社を調べることです。
市場規模は「そもそも参入して儲かるかどうか」を把握し、「参入自体を中止する・撤退する」という選択肢も含めた判断を下すための材料となります。
縮小中の市場や競争の激しい市場よりも、成長市場や競合が弱い市場のほうが利益を上げることは容易です。
市場を調査する上では、官公庁の統計や、シンクタンク・リサーチ会社の業界・業種別データを参考にできます。
2.現状を分析する
競争は、自社だけではなく市場環境や競争他社の強さ、特性によって勝敗が左右されるものです。
したがって、市場環境・競争相手の現状について分析することが必須となります。
例えば、一社が寡占している市場環境よりも、複数の企業が参入している市場のほうが新規参入は容易でしょう。
なぜなら、市場を寡占できるほどの経営資源を有する企業と一騎討ちする場合、新規参入したばかりで経営資源や認知度に劣る企業では太刀打ちできる可能性が低いためです。
また「売り物が差別化しやすい市場かどうか」も重要。
例えば、ミネラルウォーターなどは差別化しにくい商品の一例となります。
対策として、味で差別化することが難しいため、産地やデザインを含むブランドイメージで他社との違いをアピールする方法があります。
このように自社の状況だけを考えるのではなく、市場環境・競争相手について現状分析すべきでしょう。
3.課題を明らかにする
市場環境や競争相手の分析を踏まえ、自社が優位に立つためにクリアしなければならない課題を明らかにします。
経営学・マーケティングの世界的権威であるマイケル・ポーター教授は、競争相手に打ち勝つ競争戦略として、以下3つの選択肢を提示しています。
コスト・リーダーシップ戦略 | 「市場の相場よりも低価格で商品・サービスを提供する」戦略 |
差別化戦略 | 「競合他社の商品に差別化できるポイントを作って顧客へアピールする」戦略 |
集中戦略 | 競合他社が力を入れていない特定の「ニッチな領域」に経営資源を集中することにより、そのニッチな領域において競争優位性を確立する戦略 |
自社の扱っている商品・サービスの特性や、営業担当者などの人的リソースの課題を分析した上で、1〜3のいずれを実行することが収益につながるか検討してください。
4.目標を決定する
課題を明らかにした後は、課題をクリアするための目標を決定します。
営業目標としては、例えば「半期で50件の成約を獲得する」などと設定します。
目標は「組織全体で達成すべき目標」と「営業担当者一人あたりが達成すべき目標」とに分けることが一般的です。
5.計画に落とし込む
次に営業目標を達成するための具体的な計画を策定します。
計画は営業担当者一人あたりの具体的な行動ベースで決定し、ノルマとして割り振ります。
行動のノルマを達成したか否かを評価する指標がKPI(Key Performance Indicator)です。
KPIの例としては、例えば「毎月20件のアポイントを獲得する」などがあります。
営業目標を掲げるだけでなく、行動目標としてのKPIを設定することで、営業担当者は「行動を最大化すれば営業目標はともかく、KPIは達成できる」という希望を持って行動できるため、行動の指針となります。
営業戦略に使えるフレームワーク|事例付き
営業戦略に活用できるフレームワークについて、事例付きで解説します。
- 3C分析
- SWOT分析
- 4P分析
- PEST分析
- VRIO分析
3C分析
3C分析は市場の環境を分析するために活用できるフレームワークです。
「3C」は、以下3つの頭文字から命名されています。
- Customer(市場・顧客)→市場はあるか、主な顧客は誰か
- Competitor(競合)→競合他社はどこか
- Company(自社)→自社の強み・弱みはなにか
3C分析では、この3者の関係性に着目します。
→市場はあるか、主な顧客は誰か
•Competitor(競合)
→競合他社はどこか
•Company(自社)
→自社の強み・弱みはなにか
3C分析では、この3者の関係性に着目します。
「市場・顧客」→「競合」→「自社」の順で分析すると、マクロ環境からミクロ環境へと分析していく流れです。
ここでは、世界的に有名なコーヒーチェーン店を事例に取り上げます。
【コーヒーチェーン店・3C分析の事例】
◎Customer(市場・顧客)
- 日本国内のコーヒー消費量は年間でおよそ45万トン
- 利用者の年齢層は10代後半から高齢者まで、男女問わず幅広い
◎Competitor(競合)
- 直接的な競合であるコーヒーチェーン大手5社のほか、個人運営の喫茶店(シニア層が主要顧客)
- コーヒーチェーン以外にも、コンビニ・スーパーなどでのコーヒー販売も代替品として競合となる
◎Company(自社)
- 店内の雰囲気は比較的落ち着いており、高級感を好む層や流行に敏感な層から支持を集めている
- 店舗内はすべて禁煙である
- テイクアウトコーヒーの販売に対しては、「くつろげる空間の提供」として店内利用を促すことによって住み分けている
このように、3C分析を通じて「市場・顧客」というマクロ環境における自社の立ち位置を確認することができます。
SWOT分析
SWOT分析は、内部環境としての「強み(Strength)」と「弱み(Weakness)」、外部環境としての「機会(Opportunity)」、「脅威(Threat)」の4点を分析することによって、自社の課題をあぶり出すとともに打ち手を考えるフレームワークです。
まずは強み・弱み・機会・脅威の4点について要素を書き出した上で、以下4点について検討します。
要素のかけ合わせ | 検討できる項目 |
強み × 機会 | 機会に恵まれている条件下でチャンスをつかむために、自社の強みをいかに活かすか |
強み × 脅威 | 逆境に対して、自社の強みを活かしていかに乗り越えるか |
弱み × 機会 | 機会を活用するために、自社の弱みを克服いかに克服するか |
弱み × 脅威 | 逆境下で自社の弱みをいかにカバーするか(撤退という選択肢を含めて検討) |
4P分析
4P分析は、3C分析やSWOT分析の結果を踏まえ、より具体的な打ち手を検討するために用いられることの多いフレームワークです。
以下4つのPの頭文字から「4P」と呼ばれます。
- Product(製品・サービス)→3C分析などで把握した見込み客に対して、どのような製品やサービスを提供すべきか
- Price(価格)→製品やサービスをいくらで提供すべきか
- Place(販売経路)→どのような販売経路で商品やサービスを提供すべきか
- Promotion(販売促進)→製品やサービスをどのようにプロモーションしていくか
以下、世界的に有名なコーヒーチェーン店を事例に取り上げます。
【コーヒーチェーン店・4P分析の事例】
◎Product(製品・サービス)
- レギュラー商品としてのコーヒー・フラペチーノのほか、流行に敏感な若年層をターゲットに季節限定商品を販売。味覚での訴求だけでなく、SNSで話題にしやすい商品として認知されることを狙い、見た目の華やかさにもこだわりをみせる
- リピーター獲得のため、店員はフレンドリーな接客を心がける。他コーヒーチェーン店と比較して、客と積極的に会話することを店員へ推奨している
- フードメニューは他大手チェーンに比べて充実しておらず、ファミリー層の客は少なめ(一方で、ファミリー層の少なさにより店舗内の静けさが保たれ、高級感を好む客にマッチしているという側面もある)
◎Price(価格)
- 他の競合大手チェーンより高めの価格設定。安さを求める顧客からは選好されない。コーヒーや店舗に高級感を求める客がメインの顧客層
◎Place(販売経路)
- オフィス街および繁華街に数多く出店。オフィス街では通勤客をメインターゲットに、繁華街では買い物客などをメインターゲットにして集客を行う
◎Promotion(販売促進)
- CMなどへの露出は限定的。リピーターを対象に、独自決済アプリなどを通じたポイントの付与や新商品の紹介などを行い、来店を促す施策を取っている
このように、4P分析は市場環境・顧客の分析よりも自社にフォーカスした分析となっています。
PEST分析
PEST分析は環境の分析に重きを置いたフレームワークです。
4要素の頭文字を取って「PEST」と名づけられています。
- Politics(政治的要因)→政治、法律、税制などが自社に及ぼす影響について分析
- Economy(経済的要因)→景気動向、インフレ・デフレ、経済成長、金利変動などが自社に与える影響を分析
- Society(社会的要因)→人口、年齢層、世論、教育、流行などが自社に与える影響を分析
- Technology(技術的要因)→技術革新、IT導入、特許などが自社に与える影響を分析
以上で分析した環境分析は、機会・脅威などの外部環境にフォーカスするSWOT分析と組み合わせることで戦略を検討する際に役立ちます。
VRIO分析
VRIO分析は自社の持つ経営資源にフォーカスするフレームワークです。
自社の資源に「重みづけ」をし、どの経営資源に予算や労力を投入し、どの経営資源への予算や労力を削減するかを決める指標となります。
VRIOは4項目の頭文字から名づけられています。
- Value(経済的価値)→その経営資源の有無によって、企業の売上がどれだけ変動するか
- Rareness(希少性)→その経営資源が競合他社と比べて独自性があり、業界の中で希少な存在であるか
- Imitability(模倣可能性)→その経営資源が、他社から模倣されやすいか
- Organization(組織)→その経営資源を有効活用するための組織体制が整備されているか
以上のVRIO分析で分析した各要素は、SWOT分析における自社の強み・弱みにフォーカスする際に活かすことができ、組み合わせて運用することが効果的です。
まとめ
営業戦略は、売上アップやシェア拡大など、企業としての営業目標を達成するための戦略となります。
営業戦略が話し合われる会議などでは、戦略と戦術が混同されて語られることがしばしばありますが、この両者は明確に区別される必要があります。
戦略は営業目標を達成するための総合的な計画です。
これに対し、戦術は戦略を達成するための具体的な行動の計画となります。
戦略を忘れて戦術の効率化を追求することは「無意味な努力」となりかねません。
戦略を策定する際の流れとして、まず環境・顧客などのマクロ面から分析し、その上で競合他社、自社という順番で、徐々にミクロの分析へと移りましょう。
この戦略策定のために用いられるフレームワークとして、「3C分析」「SWOT分析」「4P分析」「PEST分析」「VRIO分析」を活用できます。
いずれかひとつのフレームワークだけを選んで使うのではなく、組み合わせて使うことでより精度の高い検討を行うことができるため、それぞれのフレームワークについて理解を深めることをおすすめします。